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津軽のライオン 竹内 清明(たけうち せいめい)

 彼の晩年の心境を孫の詩人、竹内二郎は次のように伝えている。
 激しい暑熱の打ちつづく夏であった。
 ある夕、妹と私と、園庭の涼み台に座って、暮れる夏雲を眺めていた。
 そんな処へ、吐月峯とげっぽう(灰ふき、タバコのキセルをたたく竹の筒)を仕こんだタバコ盆をたずさえ、ウチワを腰に手ばさみ、甚平じんべい姿の祖父も仲間入りして来た。そして元田さん(元田肇もとだはじめ・政友会筆頭総務、多くの大臣を務めた)から贈られた詩を低い声でうたいだした。

  縦横じゅうおうに策を計って東奥に連なる

  熱血そそぎ来る酬国しゅうこくの情

  麟閣りんかくの功名は人のえがくに任せ

  居然天下の老書生


  この詩は次のような意味をもっている。

  思うまま策を立てて東奥の地方を受け持ち
  国家にむくゆるために熱血をそそいできた
  国家や国民に賞讃される功名は人にゆずり
  そのまま天下の老書生でいる


 金鳥香と、少しびを帯びた祖父の声が、濃くなる暮色のしじまの中に、溶けあっていった。
 ふと妹は、その時習っていた教科書の、張良の逸事いつじ黄石公こうせきこうとの出会いや張良の隠とんの事を話し始めた。漢の建国に功のあった張良は若いとき黄石公から兵書をもらい学問に励み王侯となった。しかし後王侯の地位をすて山中で豚を飼い、豊かな人生を送ったという伝説がある。
 低吟を終わって、しばらく、うっとりと黙思していた祖父が、何気なく、妹の言葉に耳を傾けている風であったが、やがて
「お祖父さんも、張良のようにするのだよ。精一杯の仕事をして、仕事をなし終えれば、誰もわからないように、どこかへ消えてしまうのさ。」

 (執筆者 稲葉克夫)
 

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