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田山堰を開いた 田山 藤左衛門(たやま とうざえもん)

 良庵は田代山に一人で住んでいるが、向い側の黒森山を眺めて常々考えていたことがある。
 「このままでは日照りに泣く村々は決して救われることはない。何とか救う方法はないものか。」
 「ところであの高い黒森山は、あの山腹に十分な水を貯えている。そして絶えず水を吐き出している。」
 「沢に集まった水は急流となって流れ、中野川に注ぐ。中野川は浅瀬石川にのみ込まれる。しかし、中野川も浅瀬石川も村よりははるかに水位が低い。村人達は、せっかくの水もくみあげることができない。浅瀬石川の水は、あざけり笑うかのごとく流れ去っていく。」
 「日照りに泣く村人達を救う方法は……。そうだ。黒森山の水を中野川に流さないことだ。黒森山の水をそっくり利用する堰を作ることだ。」
 「まずトサバ尻の上に水を集める。それから高清 水の山の中腹に堰を通して運ぶ。がむしの峠の向い側だ。野添、目内沢から飛内、馬場尻方面の田んぼは、一面豊かな水量でうるおされる。」
 「さらにいいことがまだある。高清水の中腹を通る堰は南向きだ。流れる水はお天とう様に温められる。温められた水は稲を豊かにみのらせる。山から直接引く冷たい沢水よりも、何倍も収穫の量を増やす。花巻の村もうんと助かるはずだ。」
 「掘る堰の長さは、距離にしておよそ3里(1里は約 4キロメートル)に及ぶだろう。完成までの期間は年月にしておよそ7、8年、いや10年は要するかも知れぬ。」
 工事にあたっている人夫達は、仕事が大変きついので、ひと休みする度に「あすからやめたい。」、「こんな仕事はまっぴらだ。」、「もうへとへとだ。」と苦情を言い合った。

*→上が我、下が虫
 孫六「なあ、みんな聞けよ。おれ達はだまされているのだ。そうだろう。毎日毎日こんなに苦しんでいるのによ。仕事はちっともはかどらねえ。どだい無理なんだこの工事は。初めから無理だってことがわかっているのに、おれ達は無駄働きさせられていたんだ。その証拠には、賢いやつらはさっさとやめていったじゃないか。」
 一同「そうだそうだ。だまされていたのだ。おれ達はだまされていたのだ。」
 孫六「花巻の庄屋め、いい理屈こきやがって。水は分けてやろう。その代り新しい堰を作ろう。この堰ができたら、おめえ達の村も水不足で苦しむことがなくなる。」
 半蔵「それどころか、その水で新しい田もどんどん作れる。」
 弥七「5つも6つもの村の衆が、みんなの力を合わせりゃわけはねえっておだてやがった。」
 与作「おれ達は牛や馬のように、いっしょうけんめい働いた。」 多助「だけど、高清水の石山がこんなにも固い岩盤だとは思わなかった。工事は予定の半分の半分も進まねえ。」
 甚八「それだけじゃねえ。石がくずれ落ちてきて、これまでに何人も人が死んだ。犠牲の人柱まで出ているのだ。」
 この石山工事のつらさは、藤左衛門たちが調査した段階で予想されていたことではあったので、彼は心を鬼にして人夫達を叱咤激励(しったげきれい)したに違いない。
「今つらくても豊かな稔りが待っているのだ!子孫のためにも耐えてくれ!」

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